十何年も前にゲームの専門学校に通っていた時、クラスメイトの女の子がふいに「この小説、大久保君が好きそうだから、読んでごらんよ。面白いよ。」と貸してくれた。まだブームになる前のハリー・ポッターの第一巻。そんな風に薦められたら断るのもなんなのでと借りたものの、やっぱり文字を読むのが億劫で、ずっと部屋の隅に置きっぱなしにしていた。
多分半年はほったらかしにしていただろうか、さすがにクラスメイトの子から「もうそろそろいいかな?」と返却の催促をされたのをきっかけに、ようやく焦って読み出した覚えがある。単純にハリー・ポッターが面白いのもあったんだけど、実はそれがきっかけで「文字に対する抵抗が無くなった」っていう気付きがあったのね。マンガのほうが面白いじゃんって思ってた自分にとっては、それ自体がかなり新しい発見だった。
それから何年か経ってゲームの仕事をしている時、上司が「良書を何冊か持ってきたから、良かったら読んでみてください。」とメールで部内の僕たちに送ってきた。周りは無反応気味だったけど、僕は個人的に気になった本を誰よりも先に借りに行った。実はこの時もすぐには読まなくて、気がついたら数年経ってたんだけど。いつだったか、ようやく読んだ時に「なんで俺はもっと早くこの本を読まなかったんだよぉぉお!!!」と、えらい後悔したことを覚えている。
ちょうど仕事で行き詰ってた頃に借りたのに、読むまでに数年を費やしていたからだ。その時すぐに読んでいれば、もっと物の考え方や視野が開けていたんだろうなぁと。結局その本は、そのまま借りパクしました。(事後報告で本人の了承済)
それからまた時間が経って、ここ何年かは本屋に立ち寄っては気になるものがあれば、とりあえず買って読むようにしている。色々な本を読んでいるつもりではあるんだけれど、共通して言えることは「この人一体どんなこと考えてるんだろう?」という点。ジャンルにしてみればビジネス書だったり技術書だったり色々なんだけど、フィクションものよりはそういった作者が見えるようなものが殆ど。
コトラー、マキャベリ、半藤一利さん、冨田和彦さん、サイバーエージェント藤田さん、DeNA南場さん。一応ドラッカーとか、他にもいろいろ。本を読む目的はいくつかあって、その時々で変遷があるのだけれど、たくさん読んだほうが良いかもしれないなと思ったきっかけは、先述のような自身の仕事に対して頭打ちを感じたことが大きい理由かもしれない。
というのも、ゲームプランナーという仕事をするにあたっては、本当に参考書と呼べるような物が無かったから、そうなると、間接的に近しい物を手探りで見つける作業が必要だったからだ。ちなみに僕がゲームプランナー本を書いた理由も、「いつまで経っても誰も書いてくれないから。」というのが最初のきっかけだったりする。諸先輩方がサッサと書いていてくれたら、一々こんなことはしていないと思う。
かと言って、本に「答え」を求めたことは一度も無いと思う。というか、むしろ何冊か読んでいるうちに「答えなんて殆どの場合は書いてない。」と気付いたのかもしれない。例えば「こうすれば成功する!」みたいなビジネス書とか、自己啓発本ってあるでしょ?そういうのは最近では一切読まない。
ついでなんで言うと、なんでああいうのが毎月何冊も出るのか。簡単に言えば、著者と出版社が儲かるからであって、むしろ「読者が全員成功したら困る」わけです。こうすれば成功する!っていう本が売れれば売れるほど、成功するのは読者じゃなくて、実は著者と出版社なんだよね。これってダイエット器具や英語教材なんかが売れ続けることとロジックが一緒で、「成功したいと思ってるけど、絶対成功しない人が常に一定数いる。」という世の中の理屈で成り立っているんだな、と。(当然全部が全部そんなわけではないんだけど。)
実際問題ビジネス書とか言う本の半分ぐらいが成功者の自慢話とか結果論の美化に終始してて、時には読んだ時間返せよレベルのものも多かったりする。当然本人が読んだタイミングとかによっても意味は変わってくるにせよ、よくぞこんな物を世に出したなレベルの物とかも。「先ず目が覚めたら鏡の前で「僕は成功する!僕は成功する!」と声に出して言いましょう!」とか、マジ怖いからヤメテーってなる。逆に、本を読んでなかった頃に苦労しながら自分なりにようやく見つけた法則とかが、何年か経ってから本を読んだ時に「あぁ、それもう俺やってるわ。」って思ったりすることもあって、それだともう今更読んでもしょうがなかったり。
で、そいうことがありつつも、やっぱり本を読むこと自体はとても良いなーと最近は思うわけです。個人的には知識を貯めこむとか、成功方法とはなんぞやとか、そういった類のものには殆ど興味が無く、本を書いた人の「考え方」というか、もう少し言うと「熱量」みたいな物を感じられればいいなーと思って読む。
最近久しぶりに、まとめてドカッと本を買った。プロゲーマーのウメハラさん、同じくプロゲーマーのときどさん、映画監督の押井守さん、漫画家の荒木飛呂彦さん、声優の大塚明夫さん。まだ全部は読んでないんだけど、やっぱりこういう熱量のある人の本を読むのは単純に面白いなと。熱い気持ちになる。
一応自分もモノづくりの仕事をしているので、大いに共感することもあるし、こういう熱い人達がいることで、俺も負けてらんねーなーって感じで、また火が点く。というか、むしろそのために読んでいる気すらする。元々ある自身の熱量に、もっと火を焚べると申しますか。
また自分の本の話をすると、一応ゲームプランナー志望者向けの参考書という位置づけではあるんだけれど、自分なりにこだわっているというか、我ながら良い本だなと思う点があって、一つは知り合いの現役プランナー8人?ぐらいのインタビューをさせてもらったこと。普通に考えて自分が書いたとこなんて、自分で読んでも基本的には面白くない。そういう意味ではインタビューは僕が考えた文章ではないので、単純に読み物として楽しめるっていう。しかも同じ「プランナー」という仕事なのに、人によって全然考え方が違う。そこが面白い。
もう一つは、企画書の書き方とか仕様書の書き方とか作法的なところは割とどうでも良くて、「何故それが大切なのか?」とか「どんな気持ちであるべきか?」とか、説明と説明の「行間」に自分なりの言葉で「想い」を入れたところ。本来であればただの技術参考書には不要なところかもしれないけれど、これを入れるか入れないかで本としての仕上がりというか、「その本を出す意味」が変わるというのが、書いている時からなんとなくあった。
特にゲームプランナーという仕事はエンタメを扱う仕事だから、作り手の熱量が不可欠だと思っているので、ただ技術や知識だけを学ぶために本を読んだ人がいたとして、変な意味で効率よくゲーム業界に来てしまうことになると、後から苦労するかもしれないと思ったのが大きな理由の一つ。
要するに、屁理屈だけで武装していても辛い仕事だと思っています。実際に現役でもそういったタイプの人は、大体仕事をやっていても楽しくなさそうな顔をしているし、言いかたは悪いけれど、万年ペーペーみたいなポジションでダラダラと時間を消費しているようにさえ見える。ゲームの仕事をしているのに、楽しそうな顔をしていないって、ある意味大きな矛盾じゃないかな、と。
大体僕と仲が良くて、現場でバリバリ活躍しているような奴って、やっぱり熱量が高い奴ばっかりだし、積極性や行動力、人を楽しませようって気持ちが人一倍強い奴らばっかり。僕もそういう人間と付き合っていたほうが断然楽しいし、お互い刺激し合えること自体、僕にとっては何にも代えがたいなーと、特に最近は思っている。
なので、僕の本を読んでくれた人たちがそういった「行間」の何かに気付いてくれたり、特に気に入ってくれているところだったりしたら、純粋に嬉しいなと思っています。
最後に、「まったく関係無いジャンルの本を読むことがゲームプランナーという仕事をする上で役立つのか?」という点に関しては、うん、どうだろ、まぁ大いにあると思っています。個人的にはそこから直接ゲームを面白くするためのアイディアや「答え」を見つけられることは殆ど無いと思うけれど、「”楽しい”って何?」とか、さっきも行った「熱量」とか、そういう本質的なことに触れられるだけでも、かなり大きな収穫ではないかと。うん。
というわけで、みんなも気になる本があったら読んでみると良いかもです。オススメの本があったら教えてくださいねー。